SHAKOBA

EVENT&REPORT

SHAKOBAを彩る空間、グラフィック、照明デザイン 〜健全さと妖しさの両立〜

2020.08.18

コラム

SHAKOBAはスナック、カラオケといった夜の印象が強いコンテンツを企画の中心に据えながら、ショッピングセンターの中で365日、

朝から夜まで営業することが特徴のひとつといえます。そうした相反するテーマを、デザインの観点でどのように解決したのか。

最終回となる今回の鼎談では、空間のみならず、全体を華やかに彩るライティングや、遊び心を感じるサインなど、

全体を通してのコンセプトやこだわりをデザイナーのみなさんに伺います。

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa

(写真左から)
前川正人 tAnkers Inc. アートディレクター
志賀小巻 株式会社アワーカンパニー デザイナー
村角千亜希 spangle 照明デザイナー
綾村恭平 株式会社リビタ 資産活用事業本部 地域連携事業部 チーフコンサルタント

「振り返り」の動きで期待感を演出

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──デザインに関して、アワーカンパニーさんにオーダーしたポイントを教えてください。

綾村:竹芝はもともと劇団四季さんの劇場もあり、かつてからエンターテイメント性にあふれる街です。今回は竹芝という場所性から「エンターテイメント」をテーマに設定し、日本独特のエンターテイメントである「キャバレー」「スナック」「カラオケ」といった色気のある空間がデザインにおけるキーワードでした。一方でショッピングセンターの中に入る施設なので、夜の雰囲気そのままではかなり乖離してしまう。ショッピングセンターという健全な場所の中に、エンターテイメント性の高い、妖しさと色気を含んだ空間をどう落とし込んでいくのか。そこがひとつのカギでした。

──そのオーダーを受けて、どのようにデザインしていきましたか。

志賀:ひとつは清潔感ですね。「キャバレー=真っ赤な空間」といった色のイメージを一度崩して、緑をメインに使っています。ロマンチックさも残しつつ、未来的でもある。昼の利用シーンやワークスペースという機能的な面を考えると、清潔感は絶対に必要だと思いました。
もうひとつは「振り返り」の動きです。エントランスは真正面からではなく、主動線から少し振り返るような入り方をします。そうすると、人の目線や動きに振り返る動きが出てくる。
エントランスの真正面には「ここは何だろう?」という期待感を醸成するホワイエの照明デザイン。左に向くとカウンターのあるスタンド。右には開放的にも使えるキッチンがある。
個室のドアには丸窓があります。普通の四角い窓より、丸い窓のほうが覗きたくなるんですよね。ファサードにも同様に覗きたくなる窓がある。ホールの入り口は暗くして突き当たりにはマイクのアートが飾られている。ここはエントランスから真っ直ぐではなく、少し屈折して左に曲がってその先に空間が広がるようにしています。
「ちょっと曲がって」「ちょっと目線を向けて」と広がっていく。建物の区画としては細長い区画ですが、進むに連れて楽しめる、全部グルっと見てもらえるように意識しました。

綾村:象徴的な通路を抜けて、折れ曲がって入るというのは、銀閣寺のアプローチに似ています。背の高い竹藪を進み、突き当りで左を向くと門があり、さらに進むと庭が広がっている。建築では「到達の儀式」という手法で、期待感を高める効果があるんですよね。

──デザインにあたって、今回のデザインチームを組成した理由はなんですか?

志賀:リビタさんとSHAKOBAのコンセプトが固まってから「マイク」「照明」「グラフィック」といった象徴的なポイントを考えたときに、「音楽」をベースにノリで進められるチーム編成にしたいと思いました。村角さんは一緒にライブに行く仲ですし、前川さんも音楽がお好きで、二人とも音楽の匂いがするエンターテイメントの見せ方をよく分かっている。例えば、大阪のクラブはこんな感じだとか、ススキノのショーパブの照明はあんな感じだとか、さまざまな場の雰囲気もご存じなので、イメージを感覚的に共有できる。

SHAKOBAという空間を作るにあたって、実際にここが自分の居場所になって、たまに行っても「おかえり」「久しぶり」と迎えてもらえるような場になったらいいなという思いがありました。ホッとできる温かさがありながら、ちょっとした驚きや刺激もあって非日常の特別感が味わえる。ここにはマイクがあってカラオケもある。歌うだけじゃなくプレゼンでもいいし、言葉を発していく楽しさを見つけられる。人それぞれの楽しみ方や使い方、気分に寄り添うことができる多様性があるのはとても現代的だと思います。

人と人のつながりを「口」で表現

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──ロゴにはどのようなテーマがありますか。

前川:通常、ロゴはひとつのものであり、それが顔となり、象徴となり、アイデンティティーとなります。もちろん、そこから派生する環境に落とし込みやすいように同じイメージのサブ的なロゴを作ることもあります。今回は、昔と今の遊びを考えてみて、ひとつに限定しなくてもいいのかなと思ったんです。ひとつ象徴となるものを作ってプレゼンのときも同じイメージにつながるものを3〜4個用意しました。「どれか選んでください」ではなく、「全部使います」と。それがスタートですね。

SHAKOBAという空間のコンセプトが持つ本質的な部分を探っていく中で、人と人がつながるコミュニケーションの場であり、そのつながり感をどの程度表現するかが大事だと考えました。誰かと直接つながりたい。そのための場であると。そこで、つながるためのコミュニケーションツールは何だろうと考えると「口」なんですよね。言葉を発しないことにはスタートできない。そこから「口」をテーマにアイコン化しようと。

綾村:「口」は歌のモチーフだけではなく、プレゼンテーション、会話、食べることにもつながると。ご提案いただいて、すごく納得したんですよね。

──サインやグラフィックはどのようなイメージで作られましたか。

前川:テーマは同じですが、「つながる」をベースに、そこから「広がる」というイメージですね。

志賀:竹芝というエリアの特性もあり、最初は「波」を意識しました。さらに、人と人がつながるイメージで「波長」もですね。

前川:「波紋」も同様ですね。SHAKOBAのカーペットも「波紋」をテーマにして、広がるイメージで作っています。ロゴもそうですが、全体を通して懐かしさも感じさせつつ、決して古くささはない。そういうイメージで作りましたね。

感動が生まれるような光の物語

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──特徴的な照明計画のコンセプトを教えてください。

村角:竹芝のウォーターフロントで、「波」がテーマになっていて、そこから人の輪が広がっていく。インテリアのコンセプトも「振り返り」の連続で空間が広がっていく。グラフィックの波紋も重なる。ミラーやアクリルに反射して映る。インテリアの内装材としても家具の素材としても、いろんなところに映り込むものが使われている。カーペットのパターンもそう。広がっていく部分に照明をどうリンクさせるか。自分の中でも大きなテーマのひとつになりました。

銀閣寺の話も出ましたが、建築で「進んでいく」「導いていく」方法として「ズラし」があります。日本特有のアシンメトリックな建築文化ですよね。その面白さは光のシークエンスとしてもちゃんと取り入れなければと意識しました。光の場面展開がどんなふうにレイヤーとして重なっていて、ホールにたどり着くのか。短い距離ではありますが、そこに細かいストーリーを込めています。

エントランスから入ったら、まずは「ワーオ!」となる。一気にテンションが上がったところで、あちこち見て「あそこに行ってみたい」と想像を膨らませる。そういう高揚感のあとに、短いけど暗いトンネルを通ることで気持ちを一度リセットして、「次はどんなところに行くんだろう」と思って、ホールに入ったときに「ワー!」という感動が生まれるような光の物語を意識しています。あかりでメリハリをつけながら、メインの場所に誘っていきたいという気持ちですね。

夜はキャバレーやスナックのような雰囲気で、ドキドキ感があるディープな楽しみ方ができ、昼はさわやかに一角で仕事をしたり、ヨガや料理など、いろいろな使い方ができる。昼は明るく、夜はグッと雰囲気を変えて、かなり幅広く対応できるような照明計画になっています。同じ空間でも光の「色」「照度」によって雰囲気は一変します。グッと明るさを落とすことで見え方が大きく変わるんですよ。

舞台照明という観点で捉えると、今のライブはムービングライトを使ってワーッとライトが動き、色が変わり、パターンも数多くあって、なんでもできる。でも、ここではあえて、なんでもやらない。カラオケで懐メロを歌う人もいるでしょうから、その昭和の雰囲気にも対応できるようなレトロ感というか、最先端すぎない感じにかなりこだわりました。ジェネレーションギャップはあるかもしれないけど、「こういうのいいね」とみんなが思えるような場がなかなかないので、この世界観を共有できるとSHAKOBAはより特別な空間になると思います。

前川:僕はもともとVMD(Visual MerchanDising)という、空間の演出から売り上げを伸ばす仕事を専門としていました。人間が視覚で認識するのは「光」「色」「形」の順です。どんなにいい空間を作ってもライティングがダメなら全部台無しになる。そのくらい光は重要です。「到達の儀式」でいうと、導く中で順番に見せていく。そうすることで認識する情報が限定される。うまく順番に認識させていくことで、次の場面展開につなげていく。その要が照明ということです。

綾村:ホワイエの上にある放射状のネオンが効いていて、そこからいろんなところに行けることが説明しなくても、感覚的に理解できる。大きな役割を担っていますね。

村角:そのネオンが鏡やタイルや床に反射して、いろんなところに映り込んでいるんですよね。さらに自分のバッグやサングラスにも映り込んで、それを探すのも楽しい。その日その時だからこそ見える景色がある。その発見も面白いですよね。

──みなさんが特に見てほしいポイントはありますか。

志賀:外の通路沿い壁面にSHAKOBAでできるいろいろな使い方を、前川さんに手描きでデザインしていただきました。ホールにはSHAKOBAを象徴するテーマのアートペイントや私が手描きした五線譜もあるので、ぜひ見てみてください。シート貼ではない「人の手=思い」が入っている手描きのアートが親近感や温かみを醸し出していて、すごく魅力的に感じます。

村角:ホールカウンターのクリームソーダ色のパネルに、前川さんデザインのカーペットが映り込むのが超お気に入りです。ワーッと広がる感じがいいんですよね。オープンしてお客さんが入ったら、バーカウンターでゆっくり過ごしたいですね。自分たちが盛り上がるのもいいけど、飲んで楽しんでいる人たちを景色として全体を楽しむ。そういった温かい雰囲気の場所になってほしいなと思います。

前川:テキスタイルとかロゴは印象に残るようにかっちり作るんですけど、逆に空間に飾るものは馴染むようにしているので、手描きのイラストまわりは見てほしいですね。ホールの入り口に飾ってあるマイクのアートは志賀さんと一緒に制作したもので、マイクの中身を描いた図面になっていて青焼きでポスター化しています。これはぜひチェックしてください。

──SHAKOBAでやってみたいことはありますか。

志賀:今の状況が落ち着いたら、関わったメンバーみなさんで打ち上げしたいですね。

前川:打ち上げにはぴったりですよね。借り切って飲むには最高の空間です。

村角:なんでもできる素晴らしい設備が整っていますからね。

綾村:ホールはもちろんですが、他の部屋も含めた全体を使ってイベントもやりたいですね。以前のインタビューでエクシングの安井さんがおっしゃっていた、部屋ごとにママがいて、SHAKOBA全体が一日限りのスナックになるスナックフェスのような。イベント的に一日楽しいことをやるのもいいですし、日々ここに集まれたらいいなと思っています。

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心地よさと同時に逃げ場も必要

──令和の時代のSHAKOとは、どういったものになるとお考えですか。

志賀:コロナがあって考え方も変わってきましたが、やっぱり直接会って話すほうが空気感も伝わって、充足感も大きい。生の場、生でのコミュニケーションの重要性を痛感しています。SHAKOBAが生の場として受け入れられていったらいいなと思います。広くも大事ですが、よりアツく(厚く、熱く)なってくれたらと。そこが大事かなと。

村角:設計しているときには、コロナのことは想像もできませんでしたからね。でも、完成して実際にこの場にいると、「来たい」「体感したい」と多くの人に思ってもらえる場所にできたと自信を持って言えます。しっかりルールを守った上で、いい活用ができたら素晴らしいですよね。

前川:わざわざ集まったときに、相手が今何をしているのか、さまざまなことを確認する場になればいいかなと。SHAKOBAは完全にプライベートではなく、多少のパブリック感があるので、適度な距離感を保つことができる。気を遣いすぎる必要がないのが、いいところだと思います。

綾村:フラッと立ち寄れる場所にしたいと思います。今、コミュニティは所属するものから接続するものに変わってきていると言われています。コミュニティというとどこか面倒くささや重たさもイメージしますが、そうではなく、そこに行ったら安心できるような場所で、根底には居場所づくりというテーマがあります。心地よい場所であると同時に逃げ場もある。SHAKOにはそういう意味合いも含まれていてほしいと考えています。ポジティブなマインドのときだけでなく、ネガティブなときに逃げられる要素もある。その逃げ場に行ったことで、人生がいい方向に変わるということもあるかもしれない。

この空間にはカウンターだったり、ひとりになれる場所(逃げ場)がけっこうあるんですよね。みんなで楽しみながらも、ふとした瞬間はひとりになることができる。人間はそんなに強くはないので、弱い部分に寄り添える場でありたいと思います。

<鼎談者プロフィール>

白いシャツを着ている男の子

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志賀小巻
株式会社アワーカンパニー デザイナー

大学卒業後、大規模開発を主とする設計事務所に勤務。その後、北山創造研究所に勤務し「企画からの環境デザイン」を担当。同チームで働いていた倉富、三輪とともに2013年にアワーカンパニーを立ち上げる。主な実績:東急ハンズJewelChangiAirpot店ほか新店の環境デザイン、福井県立恐竜博物館DINOSTOREの総合デザイン、京都水族館の企画展会場構成、ヤフオク!ドームリニューアルにおける環境演出、浅草九倶楽部の企画・環境・サインデザイン等。

村角千亜希
spangle 照明デザイナー

「人・場・時間」をつなぐあかりをデザインする。人の気持ちや所作を大切に、空間の魅力を光で最大限に引き出し、美しい時間、上質な光を導く。ホテル、サロン、SPA、レストラン、ファサード、外構、住宅、Exhibition、など幅広い分野の「光の設計」を手がける。著書に「照明で暮らしが変わる あかりの魔法」(エクスナレッジ出版)。

白いシャツを着ている男性

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前川正人
tAnkers Inc. アートディレクター

セレクトブランドのショップスタッフとしてキャリアをスタートし、同ブランドのVMD、空間ディレクション、プレス、WEB開発、ブランディング等に携わった後、2014年フリーランスに。2020年2月にtAnkers Inc.を立ち上げ、イラストレーターとして活動しながら、空間演出、商品開発、広告などのディレクション、デザイン、ブランディング、など多岐にわたる内容で、ファッション業界をはじめ、アウトドア、伝統工藝など、さまざまなジャンルで活動中。

白いシャツを着た男性

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綾村恭平
株式会社リビタ 資産活用事業本部 地域連携事業部 チーフコンサルタント

1988年生まれ、石川県金沢市出身。2012年に同社に新卒入社。シェアハウスをはじめとした賃貸物件の営業を経て、2015年より同社にてリノベーションによる遊休不動産の有効活用の企画提案、プロジェクトマネジメントを行う。これまでにシェアハウスやSOHO、国定公園内の売店のリノベーションなどのプロジェクトを担当。プライベートにて、同年代が集まるイベント「Urbanist MeetUp2019」を共同主催。妻と娘の3人暮らし。

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